musiker21.com since Feb 2002 updated on 17 NOV

「ピアノ協奏曲第4番」 ト長調 Op.58


ピアノ協奏曲らしくないピアノ協奏曲は?という問いはほとんどナンセンスで、意味がないけれど、あえてそんな問いをするならば、ベートーヴェンのこの作品「協奏曲第4番」をあげるだろう。
まず、長い長い前奏がない。曲を始めるのはピアノだ。これはピアノ協奏曲としては珍しい、というか皆無に等しいのではないか。

1808年の12月に何とあの「交響曲第5番」と「6番」と共にこの「ピアノ協奏曲第4番」は初演された。しかもベートーヴェン自身のピアノによってである。しかし、この記念すべき演奏会も、当時ウィーンの聴衆には全く受けず、不発に終わる。

主題は驚くほどあっけなく単純なものである。きっと最初に聞いたときは、「えっ」と疑問に思うだろう。テンポも早くない。ピアノの流れるような音の連なりもない。この失望感は決してこの作品を卑下するものではなく、逆に身近な存在にしていく。しかし、そう感じるのは何度か聞いた後のことだろう。

第一楽章
落ち着くのだ。ピアノ協奏曲は、ピアノの華麗なソロを聴かせるのだから、どんな作品でもスリリングなところがいいのだが、この4番は、ワクワク感ではなく安心感がある。きっと主題が分かり易いことが多分に影響していると思う。ピアノのソロのすごさはもちろん要所要所で聞ける。しかし、管弦楽と奏でるその主題、メロディが落ち着いているせいである。地味といえば地味か。でも、地味なテーマは、次第次第に私たちの五感に浸透してくる。本当にゆっくりと。そしていつか日常生活の中で心の底からこの主題が湧き出てくる。やがて、何度も聞きたくなる。不思議なことだ。

第二楽章
うって変わり、弦楽器によるユニゾンで悲壮感漂うメロディが力強く奏でられる。ピアノが弱々しく音楽を補う。弦楽とピアノの会話で終始この楽章は続いていく。第一楽章の落ち着いた雰囲気とは全く変わり叙情的で哀しげだ。途中、ピアノは取り乱す。やがて落ち着きを取り戻す。慰めるように今度は弦楽器がピアノを補う。

第三楽章
弦楽器の静かな前奏に続きピアノによる主題の提示。その後すぐにピアノと管弦楽全体で高らかなフィナーレが始まる。落ち着きのある第一楽章の雰囲気をそのまま継承し、今度は本当に力みなぎる曲想である。後半にはチェロなどの低音楽器が活躍し、大フィナーレになる。ピアノのカデンツァも第三楽章の主題の変奏で、わかりやすくまた華麗である。地味な印象のこの協奏曲が、フィナーレでは思い切り派手でドラマチックな展開で終わる。

第五番の「皇帝」の影に隠れているが、この「ピアノ協奏曲4番」の秀逸さは、あの「交響曲第4番」に匹敵する。交響曲第四番の明るさについてはすでにメールマガジン「クラシック音楽夜話」Op.24で再三語っているけれど、この協奏曲も相当明るい。確かに第二楽章は悲しみに溢れ深い。ピアノと管弦楽のデュエットも素晴らしい。その深さを第一楽章と第三楽章が倍増させているのではないだろうか。

ホーム | クラシック音楽夜話 | サイモン&ガーファンクル | ベートーヴェン音楽夜話 | プロフィール