updated on 24 JUL 2006

バルトーク ピアノ協奏曲第3番 PIano Concerto No.3, Sz.119


★バックハウスにピアノコンクールで敗れる…
バルトークはコダーイと並び、ハンガリーに昔から伝わる音楽の収集と研究を重ね、豊かな民族音楽のソースを使い独特の音楽を残した異色の作曲家です。彼らの音楽は聞けばすぐにわかる本当に独特の色合いです。東洋の音楽に通ずるところがあるからでしょうか、妙に懐かしい気分にさせられるのです。
バルトークは幼少よりピアノを母に習い、先生についてピアノと作曲を学んだそうです。若いときから才能豊かだったようです。ところで彼はピアノコンクールに出ています。1905年、パリのルービンシュテイン・コンクール。しかし勝利を獲得したのはあのバックハウス(ヴィルヘルム)でした。

失意でハンガリーに戻った彼は伝承音楽の収集を始めることになります。この伝承音楽の収集と研究の成果が音楽界に多大な貢献をしたのですから、挫折が必ずしもマイナスではなく、見事にバネにした典型的例ではないでしょうか。もちろんたゆまぬ努力、そしてバルトーク自身の才能があったからであることはいうまでもありません(バックハウスにバルトークが勝っていたら音楽の歴史はどう変わっていたのでしょうか興味深いはありませんか)。

★音楽の源泉を探りあて、更に独自の新しい音楽を創造
バルトークの研究が優れていた点は、収集した音楽をとことん調べあげ限りなくその源泉までさかのぼったことにあると言われています。音楽は地理的環境の影響を受け、時代の洗礼をうけています。ハンガリーの伝統的音楽も次第に西の音楽的要素が加わり原型はちっぽけなものになっていきます。彼はまさに失われつつあった民族の音楽の核を手に入れるのです。

こういう源泉を発掘するだけでなく、バルトークはそれら音楽の源泉を独自にアレンジし新しい音楽を創造します。ここがすごいのです。確かに彼の音楽は他の音楽家の誰にも似ていない独特の世界があります。ここのところ特にウィーン古典派を中心とした音楽を聞いてきた私の耳には非常に新鮮で、月並みな表現ですが、ワクワクするんです。

★晩年は不遇の日々
バルトークが日本が1940年にアメリカに亡命してからの5年間は苦難の日々でした。祖国を愛していた彼が国を捨てるという行動に出たのはひとえにナチスの台頭による戦禍。母親が亡くなり彼はついにに亡命を決意するのです。

しかし亡命先のアメリカでも彼の音楽は一部の人々にしか受け入れられず、失意の中白血病に倒れました。祖国ハンガリーの民族音楽の魂に新たな息吹を与えた彼の音楽は本来普遍的なもののはずですが、その独特の音楽が、人々から指示を受けるためにはもうしばらく時間が必要でした。遺作となったピアノ協奏曲第三番は最後の17小節が未完のまま彼は1945年に亡くなりました。最後のオーケストレーションはバルトークの指示に従い、弟子のティボール・シェルリーが完成させたものです。

★スリルとロマンの両方を兼ね備えたコーフンものの音楽

この作品を始めて聞いた時の素直な感想をいわせてみらえば、
 「これ、本当にピアノ協奏曲?」
という感じです。確かにピアノは大活躍するし独壇場の箇所ばかり。しかし、ピアノがピアノという楽器というよりは、一種の打楽器のような印象を得るのです。88鍵の打楽器…。変な例えでしょうが本当なのです。ピアノという独立した楽器ではなくオーケストラのパートの一部のような。

特に第一楽章はこの印象が強く、じっと聞いているとハンガリーの奥深い森の向こうにありそうな未知の世界を覗いているような錯覚に陥ります。りりしい第一テーマ。シンプルですが、複雑に絡み合う音色とその音色と一体となったリズムが、頭の中で渦巻き、知らぬうちに興奮してきていることに驚きます。管楽器の雄弁さ。ピアノの怒濤の流れのようなアルペジオを伴奏に奏でられる木管楽器の不思議な哀愁帯びたメロディ。とんでもない音楽ですよこれは。なのに終わりはあっけなくフルートが印象的な声をたてて、中途半端に終わってしまうのは、妙な演出だ…。

第二楽章がこれまたいいんだなぁ。たぶんこの楽章はかなり聞きやすいでしょう。弦楽器による深い前奏。途中でフェイントぎみに妙なメロディが入りますが細かいことは気にしないでください。本題に入り寡黙なピアノによるメロディ、対話の相手は弦楽器です。ロマンチックで深い曲想ですね。ときおりフェイントぎみに妙な音も入ってきます。そこがまたアクセントになっていて微妙な余韻を醸し出すのです。中間部は第一楽章の再現のような木管楽器のざわめきが始まります。それにピアノも目を覚ましたように応える。この箇所はおもしろい!やがてこの楽章最初の音楽へと戻るのは再び眠りにつくためでしょうか。眠りにつくにしてはこのやるせないほどの情熱に、目がギラギラとしそう。そしてまたもや中途半端な終わりが…。ううっ、欲求不満になりそう。

二楽章続けてくれた欲求不満を解消するように第三楽章は騒がしく興奮もの音楽。ティンパニーの雄叫びがカッコイイ。そしてその後ピアノのソロ。これがほれぼれするほど見事なメロディです。思わず体を動かしたくなります。ピアノとリレーで弦楽器がややフーガ気味でつながります。以後ピアノと管弦楽が微妙に絡み合い、要所要所でティンパニーが小刻みのリズムを叩く。後は余計な説明をしている余裕はありません。頭の中では色んなメロディと和音、リズムが交錯し少々パニックになったり、パニックを感じたかと思えばウルトラロマンチックな曲想を挟んだり、そして再びスリリングな展開。休む暇もない音楽にきっと振り回され続けることでしょう。そして今度は、クライマックスは、ちゃんとスカッと終わってくれます(ああ、よかった…)。

★難関だが、バルトークの音楽の世界に一歩足を踏み入れると…
この作品、たぶん聞いて一度目は「?」だと思います。二度目は少しだけ興味をそそられることでしょう。でもまだ部分的にしか受け入れられない。三度目でようやく曲として全体を受け入れる心の余裕が芽生えます。本当に楽しめるのはこれからです。三度目まででこういう感じになれなければ、思い切ってここで聞くのを止めてください。CDをどこか奥底にしまうのもよし。人にあげるのもよし。でも出来ればしばらくしたらまた引っ張り出してきて聞いてみて下さい。

三度目までで運良く感覚的に受け入れられた方、さてその後?何度も聞いて下さい。いつの間にか、毎日聞きたくなっていることでしょう。おめでとう!あなたはバルトークという作曲家に少し興味を覚え始めたはずです。たぶんあなたは彼の他のピアノ協奏曲や管弦楽曲をそう遠くない将来聞いてみようとするでしょう。

でも、それからが意外に難関ですから覚悟して下さい。なぜなら「ピアノ協奏曲第三番」はバルトークの作品の中でも比較的親しみやすい方だからです。他の作品はてこずるかもしれません。でも恐れる必要はありません。そんな時はリズムと一体となった彼独特のメロディに、まず断片的にでも結構ですから耳を傾けましょう。それとこの音楽は頭だけではなく、体全体で聞いてみましょう。彼の音楽の根源には、民族が育んだ「生きた音楽」があるのですから。そうすると自然に音楽は受け入れられるはずです。

その先?私は知りませんよ。あなたはめくるめくバルトーク音楽の世界に足を踏み入れたんですから、もう抜けられません。ずっと楽しんで下さい。

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【私の聞いたCD】
バルトーク「ピアノ協奏曲第3番」Sz.119
「弦楽器,打楽器とチェレスタのための音楽」Sz.106
 ※バルトーク最高傑作とされている超有名な作品です。編成がとんでもありません。2つのオーケストラ、小太鼓、シンバル、タムタム、大太鼓、チェレスタ、ティンパニ、木琴、ハープ、ピアノというユニークなもの。浮遊するような弦楽器のメロディが怖い第一楽章。スリリングな第二楽章。火の用心カチカチかと勘違いしそうな第三楽章。これもまた怖い弦楽器の独壇場。第四楽章はリズムが圧巻。すごい。
「管楽器のための2つの肖像」op.5,Sz.37
 ※この作品は第一曲目はベルトークが恋したヴァイオリニストに捧げた「ヴァイオリン協奏曲」の第一楽章。美しくも観念的過ぎて、こんな音楽を捧げられた女性はコロッと参ってしまうか、けんもほろろに無視されるかどちらかでしょう。バルトークは見事にフラれ、原曲の協奏曲は女の死後発見され初演となったそうです。バルトークはこの曲を転用し「2つの肖像」として発表したわけです。
指揮: ギーレン(ミヒャエル), ペスコ(ゾルタン), その他
演奏: シャーマン(ラッセル), 南西ドイツ放送交響楽団
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