アメリカ America
前号で映画「卒業」について取り上げました。
ストーリーの結末は映画を見ていない方のために内緒にしておきましたが、考えてみると、あの有名な結末を知らない方の方が少ないでしょうから、種明かしをしてしまいます。
ベンジャミンは、エレインの結婚式に現れ、教会の後方のガラスの外から、叫びます。「エレイン!、エレイン!」と。振り返ったエレインは、その様子を見て感極まり、教会をかけ出て、ベンジャミンと一緒に逃走。そしてウェディング姿のエレインの手をとり、路線バスに乗り込む。二人は会話を交わすこともなく、そのままバスが走るシーン、でエンディング。
映画はここで終わり。
でもこの続きはこの歌「アメリカ」で見ることができます。
二人のハミングとギター伴奏による前奏で、歌は始まります。こういう始まりは、それまで発表された歌にはなかったものです。
Let us be lovers,
(恋人になろう)
We'll marry, our fortunes together
(二人の財産を一緒にするんだ)
I've got real estate
(本物の不動産が)
Here in my bag
(このバッグの中にある)
恋人同士が、ヒッチハイクの旅に出る。本物のアメリカを探しに。このテーマは当時ならず、アメリカ国民の心を強くとらえたに違いありません。しかも歌の主人公が、いかにもたくましいヒーローなんかでなく、どこにでもいそうな若いカップルであるところが、実に新鮮です。
旅は始まります。
We walked off
(僕たちは出発した)
To look for America
(アメリカを探すための旅に)
伴奏のリードはギターによるコードストーク。キーボードなど他の楽器も入りますが、実に控えめで、アルバム「サウンズ・オブ・サイレンス」のサウンドとは違います。この傾向は「ブックエンド」の曲全体にもあてはまります。
特に印象的なのが、1コーラスと2コーラスとの間に入る力強いドラムのアクセント。
2コーラス目では、ポール・サイモンの実際の恋人キャシーに話しかけます。実際、この歌は、ケイシーと共にアメリカ旅行をしたことを、歌っているともされています。
3コーラス目では少しメロディが変わり
Loughing on the bus
(バスの中で僕たちは笑った)
Playing games with the faces
(乗客の顔当てゲームをしながら)
She said "The man in the gabardine suit
(彼女は、「あのギャバジンスーツを着た男は
Was a Spy"
スパイだ」と言う)
I said "Be careful,
(僕は言った「気をつけて、
His bow-tie is really a camera"
(彼のネクタイは本当はカメラなんだ」)
まさに若いカップル、子供じみた会話がとてもおかしく微笑ましいです。
4コーラスで、少し二人は退屈になります。
二人は一緒にいて別の事をするようになる。
So I looked at the scenery
(そして僕は外の景色を見た)
She read her Magazine
(彼女は雑誌を読む)
最初は希望溢れた旅立ちだったのに、日が過ぎるたびに、二人は(男の方だろうか?)きっと会話も少なくなったのでしょう。
そして5コーラス目では、男のつぶやきになります。
キャシーが眠っているのを知りながら、キャシーに語りかける。
"Kathy, I'm lost"
(「キャシー、どうしたらいいんだろう」)
Though I knew she was sleeping
(彼女が眠っているのを知りながら語りかけた)
"I'm empty, and aching and
(からっぽで、苦しい)
I don't know why"
(なぜだろう、わからない)
二人の将来には夢もあるはずなのに、主人公はなぜ虚しい気持ちなのでしょう。特に、I don't know why"の部分は歌のクライマックス。ポールが歌いたかったことは、ここの部分なのかもしれません。
まるで映画のようなシーンを、1コーラスから徐々に歌い上げ、新鮮なメロディと効果的なハーモニー。アメリカで有名なパイの店の名称をさりげなく入れたりして身近に感じさせる演出。だからこそ、上のクライマックスが一層効果的です。
一抹の寂しさを感じさせられる5コーラス目の詩ではありますが、最後で繰り返し歌われる次のフレーズの力強さは、本当に感動的です。
They've all come to look for America
(彼らもアメリカを探しにきた)
All come to look for America
(みんなアメリカを探しにきた)
最初は二人だったのが、歌の終わりでは「みんな」になっています。たとえ寂しくとも、不安でも、「誰もがアメリカ」を探している、と。
このフレーズで特筆すべきなのが、ガーファンクルの高音ハーモニーです。詩の「アメリカ」のフレーズで、ポールとずれる所が微妙なハーモニーを生み、格別の美しさです。
オール・カムズ・ルック・フォー・アメリカ!
断然スケールが大きくなったポール・サイモンの歌。それを充分感じさせる「アメリカ」は、ガーファンクルとのパートナーシップも最高潮の時期でもあり効果的で美しいハーモニーが光るまさに傑作でしょう。
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