Allergies アレジー(アレルギー)
アルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」第1曲
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妙な雰囲気の歌だ。こういう曲はそれまでのポールの作品にはない。
電子音的な短い前奏の後、ポールがうんざり気味に歌う。
Allergies アレジーズ(アレルギー)
Maladies(マラディーズ)
病気だ、病気
Melodies(メロディズ)
メロディだよ、メロディ
Allergies to dust and grain
粉塵アレルギーだってさ
Maladies(マラディーズ)
病気だから
Remedies(レメディズ)
治療して直ったはずなのに
Still these allergies remain
アレルギーはまだここにいるんだ…
この部分、日本語にすると全く面白くないので、かっこ付きでそのまんまの発
音をカタカナ表記してみた。語尾が'dies'と韻、というより言葉遊びに近いか
もしれない。病気→旋律→アレルギー→治療、と続くところも意味不明だ。
歌詞にはあるけど、最初のMaladiesは聞こえない。いきなりMelodies、いや
MaladiesとMelodiesの間のようなあいまいな発音に聞こえないか?意味深。
病気が体に常駐し、いつも頭にある音楽のような存在になってしまったことの
不覚さ。アレルギーという病気で、治療したのに、全く直った気がしない、
そんなうんざりした様子がこのプロローグのフレーズで、強く伝わってくる。
remainのあたりの裏声が切ないなぁ。
ドラムビートでさて、本題に入る。ここからは、怒ったように歌うポールの歌
唱に注目したい。まあ、歌うというより、語る、吐き捨てるように喋っている
みたいだ。重厚なリズムを感じる。2台のドラムや、バックの金管楽器群のせ
いだろう。
My hand can't touch a guitar string
ギターの弦にも触れない
My fingers just burn and ache
とにかく指が熱く痛いよ
My head intercedes with my bodily needs
頭は懸命に肉体的欲求を制御しようとするけど
And my body won't give it a break
体の方は止める気はないみたい
My heart can stand a disaster
災難だから仕方ない、とか
My heart can take a disgrace?
屈辱を甘んじて受けよう、と、頭では思うんだが
But my heart is allergic?
そもそも心がアレルギー状態
To the women I love?
しかも、愛する女性に対してのアレルギーだ!
And it's changing the shape of my face
このアレルギーは僕の顔の輪郭を変える威力
ギターも弾けないとは重症。それほどひどいアレルギーとは、辛い。が、ギタ
リストの宿命で、体が自然に動いてしまうんだろう。痛くても弾かずにはいら
れない。仕事のためだけど、仕事のためじゃない。頭で、「いかん、いかん」
と思いつつも、左手はネックに、右手は弦をつまびく。その気持、ギター弾き
ならば誰もがわかる。
そして、メロディを奏でるギターや音楽から、突如話題は、心に移り、愛する
女性への思いを語る。愛するがため、愛しすぎるがためだろうか、何かが遠ざ
けようとしている。心の葛藤が、彼をやせ細らせる。
笑っちゃいけないけど、次のフレーズは底抜けに楽しい。
アレルギーにうんざりしている鬱屈した気持を笑い飛ばすように、軽快なドラ
ムとホーンをバックに、歌うポール。なんて楽しそうだろうか。そして我々も
ご機嫌になるじゃないか。
Allergies
Allergies
アレルギー
Something's living on my skin
俺の皮膚には何かが住み着いているんだきっと
Doctor please
Doctor please
先生、先生、どうか
Open up its me again
奴の正体をまた暴いてくださいよ、お願い
皮膚に何かが住んでいる、と思う気持ち、わかるんじゃないかな?
むずむずし、いくら掻いても、おさまらない、イライラ。まったくどうしてく
れるんだ!と吐き捨ていているみたい。医者にすがりつくけど、素知らぬ顔で、
「別に何もいませんよ。気のせいですって」
と言われたところでまともに信ずる気持などサラサラないんだから始末におえ
ない。
I go to a famous physician
有名な医者にかかることになって
I sleep in the local hotel
医者の近くのホテルで眠る
From what I can see of the people like me
あたりにいる、同類の人々を見ていれば
We get better?
僕らは良くはなっているようだ
But we never get well
でも、完治はしないんだ
So I ask myself this question
そこで自問してみるのさ
It's a question I often repeat?
毎日のように繰り返している質問
Where do allergies go
アレルギーはいったいどこへいくんだ?
When it's after a show?
奴らにショーが終わると
And they want to get something to eat?
食事にでも行くのだろうか?
疑心暗鬼は増殖する。他人を見れば少し自分はましだと思うのかもしれない。
けど、ましであっても、決して直らないと勝手に思いこむ。心がアレルギーと
自分が決めつけている通り、彼がそうあるのは、彼の心がそうだからに他なら
ないことに、彼は気が付かない。だから、アレルギーを擬人化し、自分をさん
ざん苦しめた後(アレルギーたちのショーだ)、打ち上げパーティよろしく、
ディナーへ出かける光景を夢想する。
この辺りになれば、ようやくポールが、この歌で、ジョークを飛ばしているか
がわかるだろう。それも聞き手を心配にさせるようなたちの悪いジョークだ。
ベースの音が効くなぁ。パーカッションも楽しい。
Allergies アレルギー
Allergies アレルギー
Something's living on my skin
俺の皮膚には何かが住み着いているんだきっと
Doctor please
Doctor please
先生、先生
Open up its me again
奴の正体をまた暴いてくださいよ、お願い
さて、ここで冒頭のスロー部分のメロディが、リズムにのり再現だ。ブラスの
後、軽快なギターソロはアル・ディ・メラオ。いやあ、カッコイイ。ときおり
聞こえてくる渇いたギターのヘヴィなアルペジオ風フレーズもいい。リズム、
リズム、そしてベースとギター。ノリノリの音楽とはこのことだろう。もはや
詩の意味を深く追求する必要などない。アレルギーとは無縁のごキゲンな音楽。
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人は変な印象があっても、拒絶感ばかり感じるとは限らない。この歌はまさに
その類。初めて聞き、「うわ、これ大好き」と思う人は少数だと思う。特に、
ポール・サイモンの歌を長く聞き続けてきた人であればなおさら。でも、聞き
続けていると、そのうち病みつきになる。
前の「ワントリック・ポニー」も相当驚かされたけど、この第一曲は、ぶっと
ぶ。曲の雰囲気も変わっているし、詩といえば、普通なら誰もテーマにしよう
とはしないアレルギーだ。気味が悪い、って思われても仕方がない。
が、「アレジー」も次の「ハーツ・アンド・ボーンズ」も、いやこのアルバム
収録の作品はパーカッションがますます際立っていることに気が付く。「アレ
ジー」で印象的なのはもちろんギターだけれど、ドラムやその他のパーカッシ
ョン、そしてベースが面白い。
この一風変わった曲に度肝を抜かれ、終わってもなおその余韻が醒めないうち
に、われわれポール・ファンが泣いて喜ぶ、アコースティックギターの前奏で
始まるのが、アルバムのタイトル曲「ハーツ・アンド・ボーンズ」。なんと、
久しぶりだ。なんて懐かしいんだ。
そしてこの歌こそ、ポール・サイモンの歌そのものであることを、誰もが感じ
るに違いない…。
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